5年前、バンド活動に見切りをつけ、芸能事務所に入社した祐司だったが、企画のキャンセルを詫びに行ったライブハウスで、天井知らずのパフォーマンスを見せつける女性ギタリスト、夏美と出逢ってしまう。祐司は夏美を売り出したいと接触を試みる。
バンドのリーダー畑中とローディー真緒は、夏美の可能性とバンドの限界を感じており、祐司の企てを後押しするのだが、そこに、思いもよらない事件が起こってしまうのだった……。曲作りもテクニックも、努力だけでは到達できない才能を持つ夏美。彼女は、仲間を踏み台にして羽ばたくことはできるのか?
2020年8月に『武士道シックスティーン』『レイジ』『疾風ガール』と誉田哲也さんの作品を読んできましたが、この『疾風ガール』が最も古い作品なのに、最もダイナミックな展開で引き込まれました。そして、感動している自分を発見しました。だって、ここに登場する人物たちは、自分の夢を諦めても他者の夢を応援できる人たちだったから……。
- 疾風ガール (光文社文庫)
- 光文社
- 本
誰もが自分が得意とする分野で、努力だけではどうしても乗り越えられない壁に気づくことがある。でも、そこで挫けてはだめだ。それに気づくということは、そこそこの領域に到達しているということでもある。
世間に認められる立場を守るために、自分の主張を諦め、他者の主張に屈服するのか、それとも、たとえ世間に認められなくても、自分の主張に拘るのか、何が成功で、何か失敗か、また、何が成長で、何が後退か、そして、何が幸福で、何が絶望か、それを決められるのは、他者ではなく、自分だけである。
何もかもを一人で成し遂げられる人は限られているかもしれないけど、チームの力を借りるという方法もある。殆どの人は、夏美のような輝きを持っていないかもしれないけど、祐司と千鶴のような幸せなら、理解と献身によって間違いなく得られるはずなのだから……。