武士道シックスティーン
解説によると誉田哲也さんは、ホラー小説や警察小説で飛ばしていた方らしいが、この作品は、人がひとりも死なない青春小説。
物語は、剣道部に所属する二人の少女が、市民大会で対戦するところから始まり、視点が二人の間を交互に移動しながら進むのだが、生立ちや性格、剣道に対する思いが全く異なる二人の主人公が自分の有り方を求めて煩悶する姿に、どちらに加担(感情移入)したら良いのか分からないという居心地の悪さを感じながらも、思わず力がこもる。
登場人物たちが背負う人生が徐々に明らかになる中で、彼らが読者の期待と異なる行動をするので、物語が拡散と収束を繰り返す。読者は幾度となく緊張感と歓喜の間を往復させられるのだ。
二人の少女(香織と早苗)の親世代に近い私としては、彼女たちの父親や指導者たちの振る舞いに考えさせられた。二人が挫けずに活路を見出す過程に、早苗のお父さんが起死回生の実験から復活するなど、それぞれの父親が関わり、本題に沿って進行するドラマの存在も嬉しかった。
- 武士道シックスティーン (文春文庫)
- 文藝春秋
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