作家の猫 岩井さんの仕事
岩井さんの仕事は、文筆業だ。とはいっても作家ではない。当然のことながら学者などでもない。企業から依頼された文章を書いたり、挿絵を描いたり、企業のホームページに投稿するコラムを書く仕事である。岩井さんは、以前、企業で商品開発や品質保証の仕事をしていた。その仕事をするために、絵を描いたり、文章を書いたりしていたわけだが、定年を機に退職し、ブログを更新するだけの毎日を繰り返していた。
岩井さんが勤めていた企業では、顧客とのコミュニケーションを促進するために、対話型のホームページを開設していた。お客さんが投稿した質問や意見に、何らかの回答をする。企業のホームページだから炎上は許されない。お客さんの質問に答えるために、多くのことを調べなければならないこともある。過激な意見をいなし、感謝の気持ちを伝えなければならない。企業は家でゴロゴロしている岩井さんに、その仕事を依頼したのだ。
岩井さんの応対は、しだいに人気が出てきた。コメントを書き込む人は、限られていたが、お客さんと岩井さんとのやりとりが面白いのか、閲覧数の方は順調に伸び、そこから商品を購入するクリックも生まれた。やりとりが「やらせ」ではなく「リアル」だったことが良かったのかもしれない。気を良くした企業は、岩井さんのコラムを開設することにした。そして、現在の岩井さんの仕事が確立したのだ。