作家の猫
岩井さんは、毎週のようにサイクリングに出かけていた。時には、月に300kmも走ることもあった。それが、猫を飼うようになってからパッタリなくなった。自慢のロードバイクは、玄関の壁に吊されたまま埃をかぶっている。
毎週水曜日は、可燃ゴミの収集日だった。岩井さんが玄関の外にゴミ袋を出しておくと、決まってゴミがあらされている。猫の仕業だった。岩井さんは、ゴミ袋を包むネットを作ってゴミ袋をおおうようにした。
それを見ていた岩井さんの長女、志麻子さんは、ボウルにミルクを入れて猫の前に差し出した。猫は、最初は遠くから見ていたのだが、やがて近くにやってきてミルクを舐め始めた。もしかしたら人に飼われていた猫なのかもしれない。
その日を境に、猫は毎日やってくるようになった。それも日の出とともにやってくる。岩井さんは、60歳になる頃から、早朝に目が覚めるようになってしまい、思い切って4時に起きるようにしていた。
岩井さんが、新聞をとろうと玄関を開けると、猫はドアの隙間から頭をねじ込んでくる。もうその頃は、牛乳が猫に良くないこともわかっていたので、ディスカウントストアで買ってきたカリカリを与えるようになっていた。