χの悲劇
- χの悲劇 (講談社ノベルス)
- 講談社
- 本
何て言ったら良いのだろう?前半から終盤に向かってリアルとバーチャルを
行き来しながらスピード感を楽しませてくれる物語だと思っていたら、
終盤になると居ても立っても居られない展開が待っていた。
それはすっかり感情移入してしまっていた島田文子に訪れる突然の衝撃。
悲しすぎる結末の予感に思わず体を硬直させて身構えるが、実際は
『有限と微小のパン』や『赤緑黒白』にも通じる穏やかで暖かい着地であった。
この最後にかまされる叙述が森先生だからこそ読者は騙される快感に
酔えるのだと思う。
S&MシリーズもVシリーズもそうだったが、森博嗣さんの作品は、
シリーズの終盤に差し掛かった時、緊張感とスピード感が高まるというよりも、
むしろ落ち着いて、穏やかになって行くような気がする。『χの悲劇』のこの
静けさは、いったい何なのだろうか?シリーズ全体が終盤を迎えつつあるような
予感があるが、使い古された“驚愕”という言葉とは違う表現が必要になりそうな
結末が訪れるような気がする。
『χの悲劇』は、バーチャルの世界を描いているシーンのスピード感が、
まるで『マトリックス』を観ているようで素晴らしい。このような描写は、
森先生ならではのものだよね。このバーチャルでリアルタイムの繋がって
いる感じ、まさに『χの悲劇』の世界だね。離れているけど、みんなが
同じ時間にPC(スマフォ)に向かっている。30年前には、考えられ
なかったことだね。
私は宮部みゆきさんの作品を読んでいる時、しばしば現実と小説の中の
境界線が曖昧になってしまうことがあるが、森先生の作品を読んでいると、
小説の中にいる時の方が生きている感じがしてしまう^^;
実は、この『χの悲劇』より『ムカシ×ムカシ』を先に手に入れていたのだが、
こちらを先に読んで正解だったと思う。ここまで篩落とされずに読み続けて
こられた皆さんが、異口同音に「ここまでは読んで!」と仰る意味が解った。
犀川先生や萌絵ちゃんは登場しなかったけど、すっかり島田文子さんの
ファンになってしまった。
いやぁ~森先生は、やっぱり凄いねぇ~私は、もう、しばらく他の作家さんの
作品を読めなくなりそうだ。これまで退屈で、うとうとしながら読んでいた
Gシリーズですが、この『χの悲劇』の一撃で目が覚めた…まるで、
『すべてがFになる』を書いた時点で構想したいたかのような、シームレスな
繋がりは、森先生が真賀田四季なのではないのかと思ってしまう程だった。
S&Mシリーズにしても、Vシリーズにしても、Gシリーズにしても、
物足らない巻があったが、単に面白い話が書けなかったわけではなく、
意識的なものなので、大きなうねりに読者を巻き込むような流れに
するためだったとしたら、驚かされるね。
Gシリーズはまだ続くのだろうが、森先生は、このように幕を閉じることが
できるからこそ、10巻にも及ぶサーガを描く資格があるのだと思う。