ふたつめの月
- ふたつめの月 (文春文庫)
- 文藝春秋
- 2012-11-02
- Kindle本
近藤史恵さんは、優しい、そして、ちょっと意地悪だ。読者は、筋を辿りながら、
久里子に、弓田に、赤坂に、こうなって欲しい、こうあって欲しいと願う。
その願いは、裏切られることが多い、そう、より良い方に、または、より悪い方に、
でもそこが、この物語りの魅力なのだ。ミステリーには、どんでん返しがつきものだ。
その先に、より大きな悪が控えていることが多い、しかし、前作『賢者はベンチで
思索する』と、この『ふたつめの月』は、謎の真相が、より穏やかという稀有な
作品たちだ。読者は、最後に、ホッと胸をなでおろし、余韻に包まれる。
この本を読んで思った。
事件や謎の真相が「なんだそうだったのか」と肩透かしのような内容なのに、
だからこそ「良かった」と思えるミステリーって他にないような気がする。
だって、ほとんどのミステリーは、読者の想像を超えるボスモンスターを
控えさせておくのが作家達の常套手段であるわけだから…
でも、近藤史恵さんは違う。まるで、子守唄のように聴いた寓話の様に、
あたたかい余韻に包まれながら、眠りの中に誘い込まれる。